SAKANAQURIUM光ONLINEはウィズコロナ時代の新たな芸術だった

 8/15,16に行われた、サカナクション初のオンラインライブ「SAKANAQUAIRUM光ONLINE」、とうぜん大のサカナファンな上に、今年のライブが二本とも中止になった身として2日間の両方を購入しました。

バイトの都合上、リアタイで観れたのは初日のファンクラブ会員向けのみでしたが、まさしく「革命」でした。


(ここからはネタバレまみれ)


まず、本公演はテーマの一つとして「ミュージックライブビデオ」というものがありましたが、全編通してその通りなんですよね。

始まり方が外で一郎さんがスマホでオンラインライブを見ている、そこからステージに向かって歩いていく中で、少しずつ演奏が聞こえてくる、そしてメンバーが演奏する場所に着いて表示される「SAKANAQUARIUM光ONLINE」のロゴ、いちいち演出がニクいです。もうサカナクションって感じですよ。

そこからマッチとピーナッツ、聴きッドルームとミュージックビデオ!?と思わせるような演出が続きます。

ここでステージがどういった構成だったかを説明すると、3方面が白いスクリーンになっていて、それらには後ろから投影(リア投射)で映像が映し出されている中で、メンバーが演奏していきます。

マッチとピーナッツはオイルアートを投影した演出。

聴きたかったダンスミュージックリキッドルームに、は上から投影しているレーザーをメインにした照明という、普通のライブではなかなか難しそうな演出でした。

ユリイカは、地味にアレンジが入ったのは初じゃないですかね。

3面にモノクロで映し出される東京の映像、そして昼間の東京に見える映像から、夜の東京のビル街、そして始まるネイティブダンサー。

ネイティブダンサーの演出もスクリーンに後ろからレーザーで投影という、かなり贅沢なレーザーの使い方でした。

そして、次がワンダーランド。

ワンダーランドは2019にて発表前の曲として初披露された曲でもあり、兼ねてから2020では演出を変えていくと述べられていましたが、光ではレーザーを多用した演出、そしてサビでは3面には砂嵐、配信画面ではそこにノイズを上乗せするという、これまた配信でないと不可能な演出を見せてきましたね。

その次はまさかの流線。

流線でオイルアートがないというのもかなり珍しいですね。

そして茶柱、ステージに変な形の照明を置いて、その明かりだけで演奏というこれまた狭いステージであるからできる演出ですね。

スクリーン、床、衣装が全て白色だから余計に映えますね。

ナイロンの糸では2017のシーラカンスと僕を彷彿とさせる「紗幕に真ん中を取り出す」という演出。

次のボイルでSAKANAQUARIUM光ONLINEがいかにSAKANAQUARIUMたらしめるかを見せつけてきます。

最後の最後にスクリーン、そしてメンバーを照らす照明は暗転し、後ろのスクリーンが崩されて差し込む光、今回の公演に光の名がついている意味が分かります。

この公演、このセトリを見ると気づく人はいるかもしれないですけど、「魚図鑑ゼミナール」を彷彿とさせる、深海から始まるセトリでして、最後のエンドロールで分かりますが本公演のロゴも魚図鑑のパッケージデザインの平林さんが担当しています。

元々の公演が834.194発売後における初のツアーということもあり、アルバム発売後における834.194を解釈して行われるツアー、ということで、魚図鑑までに834.194を加えた新たな魚図鑑ゼミナールという捉え方もできるのかもしれません。

ここまでサカナクションらしい演出が続いてきたライブですが、ここからもサカナクションしかやらなさそうな演出が。

スナックのセットがあるのは知っていましたが、まさか陽炎の一曲のためだけに準備するとは...

次のモスあたりからわかってきますけど、モスの感想を一旦置いておいて、舞台がまるで箱型...

確実にライブスタジオでも、劇場ホールでもないんですよね。

明らかに映画とかで使うスタジオです。

会場のチョイスが完全に他のバンドとも違うという...

GLAYは山の中でやっていたので、あれもオンラインでしかできない演出ですが、サカナクションもオンラインでしかできない演出を見せる場として、普段から使っているライブハウスではなく、撮影スタジオを選んだってことです。

ミュージックライブビデオというテーマにおいて、確かにこれは最適な会場ですよね。

リアルタイムで作り出されていくミュージックビデオ、その撮影、そしてそれが放映されていく...さすがサカナクションです...好き...

後ろに置かれた照明も、ボイル以降、つまり浅瀬に入るまで使うことがないっていうのもほんと贅沢です...こんな使い方するのマジでサカナ以外にいるんですかね。

モスが終わり、夜の踊り子が始まると、まさかの踊り子さん二人が登場。

まさか踊り子さんも呼んでいたとは...となるとあの人たちも呼んでるってわけですよね...??

モス、夜の踊り子と普段のライブに見劣りしない照明演出、そしてストリーミングだからこそのカメラワーク、ほんと劣化版にしないですよね。

アイデンティティから次は多分、風。へ

多分、風。の時だけではないですけど、ギターを変える時など、スタッフさんが映るシーンも普段のBlu-rayやライブでのサービスでは映さないようにするものですが、スタッフさんが映るっていうのもほんと良いですよね。

ライブはスタッフがいないと成り立ちません。

ギター変更無しで一本通すことも今はなかなかないんじゃないですかね。それらを支えるスタッフも含めてのTeam Sakanaction、改めてただのライブじゃないんです。

そしてルーキーからミュージック、ミュージックはライゾマ節炸裂でしたね。

映像にリアルタイムでエフェクトをかけて、それを配信に回す、ライゾマじゃないとできないですね。

そして本編ラストの空気が漂い始める中で新宝島。

当然スクールメイツの方々も登場です。

今回のセットでは、小さめのLEDパネルがいくつか吊るされていましたが、それらも表示だけでなく、それ自体を照明としても使っていたり 。

深海・中層までは映像を駆使した演出でしたが、浅瀬は照明をメインとしたザ・サカナクション的演出、そのために模様を出したりできるサイズの、明かりが強めの小さめのLEDパネルを使ったってことですかね。

そして最後に少しだけMCをして、ラストの忘れられないのへ。

紙吹雪っぽいのが舞って明るく終わるのかと思いきや、最後にSAKANAQUARIUM光のロゴ、そしてさよならはエモーションが。

エンドロールが流れる中演奏されるさよエモ。

「僕は行く ずっと深い霧の向こうへ」

「僕は夜を乗りこなす」

「いつか見つけ出す 深い霧を抜け」

新型コロナウイルスの影響でライブという収益の柱を失い、収益が1/3にまで落ち込み、その状況に終わりが訪れるのはいつかも未だ不明。

そんな深い霧に覆われた夜を乗りこなすため、サカナクションが送る「SAKANAQUARIUM光ONLINE」、さよならはエモーションを最後に持ってくるというのは必然とも言えるでしょう。

演奏が終わり、ステージを降りて抱き合う一郎さんと田中監督、そしてフェードアウトして終演...配信なので流石にアンコールは無し。

自分は当たっていたSAKANAQUARIUM2020は全部中止になって行けなかったため、オンラインとの比較はできないのですが、オンラインライブと聞いて考えられる「ライブ」を生放送でやるだけのものでは無かったです。

単にライブを生放送するだけのものにはしたくない、と常々一郎さんは言っていましたが、実際に目にできるまではどんなものになるかも全く謎でした。

実際に行われたライブは、公言通りただのライブではなく、言ってしまえば映画のような、リアルタイムで作られている点で言えば演劇のようなもので、ロックバンドのライブとは思えないような、その名の通りミュージックライブビデオでした。

これはPVを撮影する映像作家を中心としたチームだけではなく、また、ライブ演出を行うチームのいずれかだけで作るのではなく、サカナクションが仕事を頼んできた、サカナクションを理解したそれぞれのプロの共同チームによって作られた作品であるんですよ。

その結果、これまでにないオンラインライブの形が出来上がったというわけです。

他のミュージシャンからの反応が薄い、というかほぼゼロというのも分かります。

だって、こんなものを見せられたら他のバンドがやるオンラインライブなんて全部しょぼくなりますもん。

今回サカナクションの最大の功績は、演出のこだわり方によっては「オンラインライブが通常のライブの劣化品にならない」ということを証明したことだと思います。

ストリーミングで普通のライブを配信するとすれば、音響面は当然弱くなるだけでなく、インターネットに乗せる上で音質も当然劣化してしまいます。

また、配信する上でのミキシングも当然ライブ会場から音を撮ったものを直接流しても劣化するわけです。

また、普通のライブは生でこそ味わえる空気、他のアーティストなら熱いMC、オーディエンスとのコールアンドレスポンス、それらが無くなるだけでもはやただの劣化版です。

多くのアーティストが一時期無観客で無料での配信をおこなっていましたが、それらはぶっちゃけ劣化版止まりでした。

見れないよりも見れる方が当然よかったものの、所詮「普通のライブを見に行きたい」という気持ちを高めるだけです。

SAKANAQUARIUM光を見終わった時も早く普通のライブを見に行きたい、という気持ちも普通にありましたが、それよりもこの公演自体への感動という気持ちを持たせることができたという時点で、それはサカナクションの試みの勝ちです。

それだけの予算を投入し、音響面だって立体音響技術の投入など、他のバンドではまあやってこなかった事が大量に詰め込まれています。

MCが普段からほとんどないサカナクションだからこそ、MCを徹底的に省き、一つの作品に仕上げれたっていうのもあるとは思いますが、ほんとこれの後にオンラインライブをやるバンドは若干キレてもいいぐらいのものだったと思います。全部下に見えるもん。

ただ、新技術を積極的に導入するサカナクションがいるからこそ、終わりの見えないコロナ禍のなかで増えるであろうオンラインライブの新たな形のテンプレートとして、SAKANAQUARIUM光で導入された技術たちは、これから他のアーティストへの提案として出されていくかもしれません。

むしろ、今回の公演のメインはそこにあるのかもしれません。

サカナクションの人気の規模でも計6万枚ものチケットが売れたわけです。

しかもオンラインにしてはちょっと高めな一般価格4500円という値段でも、です。

もっと人気の高いバンドはたくさんいますし、そんなバンドはこの提案の導入を実現する事だって容易でしょう、というか是非とも導入して欲しいです。

ただの劣化版を見せるだけではない、オンラインだからこそのライブの表現を見せつけてきたサカナクションに最大限の拍手、そして溢れんばかりのありがとうを叫んで、この投稿の締めとしたいと思います。

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